前置胎盤とは

・真の前置胎盤はleaf likeに描出される頸管腺領域の最上端に胎盤が覆う状態である. 頸管腺領域を明瞭に描出し,そこよりもさらに子宮体部側で内腔が閉じているように見える場合は,子宮下節が閉じている状態(時期)であると考える(図16). 子宮下節が閉じている状態では,真の前置胎盤を診断することは困難である. それは,前置胎盤様に見えていたものが,下節開大後にそうでなくなる場合が多いからである2). そのような場合は,子宮下節が開大するまでまってから診断する(図17). ④治療 ・前置胎盤は,妊娠中に急な出血によって緊急帝王切開が必要となるだけでなく,帝王切開時にも癒着胎盤の合併が明らかになることや,出血多量のために子宮全摘を含めた集学的治療を要する場合がある. 前置胎盤の帝王切開では,それらに対処するため多くのマンパワーを含めた医療資源が必要である. ・前置胎盤の平均分娩週数は34~35週であるため3),夜間や休日でも緊急帝王切開゙でき,早産児や低出生体重児でも管理ができる高次病院での妊娠管理・分娩とし,診断後はなるべく早期に紹介する. 無症状の前置胎盤をもつ妊婦に対しての入院管理,子宮収縮抑制薬,子宮頸管縫縮術が予後を改善するというエビデンスは乏しいが1),警告出血があった場合の7割は緊急帝王切開になるため,出血例は入院管理とする4). 2)癒着胎盤 ・胎盤は,脱落膜上の絨毛膜の一部(繁生絨毛)が厚く成長することでつくられる. この時,脱落膜は絨毛の子宮筋層内への侵入を防ぐ働きをする. そして児の分娩後は,脱落膜とともに胎盤が容易に剝離,娩出される. ・何らかの原因で子宮の脱落膜(子宮内膜)が欠損,菲薄化しているとき,絨毛組織は直接子宮筋層内に侵入して癒着胎盤となる. 帝王切開,子宮筋腫核出術(特に子宮 鏡下手術),子宮内掻把などの子宮内手術,子宮内膜炎,子宮動脈塞栓術などは子宮内膜が損傷を受ける可能性があると考える. ・癒着胎盤の妊娠中の診断のためには,癒着胎盤に関連する既往歴や超音波所見の有無を確認することが重要である. しかし,子宮手術既往のない症例に癒着胎盤を診断することは極めて稀で,分娩前に癒着胎盤が疑われるのは,前置胎盤か子宮手術の既往例がほとんどである5). 前置胎盤は,脱落膜の薄い子宮下部に胎盤が付着しているため,初妊婦でも癒着胎盤になりやすい(前置癒着胎盤).

帝王切開が必要?

胎盤が正常の場合よりも低い位置に付着し、胎盤が子宮の出口(内子宮口)にかかっていたり覆っていたりする状態を「前置胎盤」といい、その頻度は、全分娩の0. 26~0. 57%といわれています。 胎盤は、お母さんと赤ちゃんをつなぐ血液・酸素・栄養のとても豊富な組織です。前置胎盤は、胎盤が赤ちゃんよりも子宮の出口付近に位置しているため、ほぼ100%帝王切開で分娩となり、お母さんにとっても赤ちゃんにとっても危険性の高いハイリスク妊娠です。 どんな人がなりやすいの? 前置胎盤の発症メカニズムの詳細については、まだよくわかっていませんが、子宮内膜のなんらかの障害が原因と考えられています。 危険因子として、高齢妊娠、 喫煙、多産、多胎、帝王切開術、流産手術や人工妊娠中絶術既往、その他子宮手術(筋腫核出術など)の既往などが原因として挙げられます。 近年では、妊娠の高齢化、不妊治療の普及、帝王切開分娩の増加などにより前置胎盤の頻度も増加しています。特に帝王切開については、その頻度が増すごとに「癒着胎盤」の発生率も上昇することが知られています。 どんな症状がありますか? 一般的に前置胎盤は無症状ですが、腹痛を伴わない突然の性器出血(警告出血)や大量性器出血を認めるのが典型的な症状になります。これらの症状は、お腹が大きくなり張りやすくなる妊娠28週以降に増加するといわれています。こういった症状がある場合には、かかりつけの病院への緊急受診が必要です。 いつ頃診断されるのですか? 前置胎盤の診断や分類には、経腟超音波検査を用います。妊娠の早い時期に前置胎盤と診断されても、妊娠が進み子宮が大きくなると徐々に胎盤が上にあがり、最終的には前置胎盤でなくなる例が多くあります。このため、妊娠中期は「前置胎盤疑い」として、妊娠31週末までに診断します。 前置胎盤と診断が確定した場合は、胎盤と子宮口の位置関係によって図のように分類されます。癒着胎盤を疑われる場合には、追加でMRIなどの精密検査が必要となることがあります。 図:日本産科婦人科学会HPより 妊娠中の管理方法は? お産はいつ頃? 妊娠中 前置胎盤と診断された時には、出血することもあるため、基本的には安静にして無理な運動や性交渉などは控えた方がいいとされます。入院管理の時期についての決まった考え方はなく、病院によって様々ですが、当院では妊娠 30 週頃に管理入院を勧めています。しかし、妊娠中に出血を認めた場合はその時点で入院管理となり、お腹が張らないように子宮収縮抑制剤の投与を行います。 お産に備え、貧血を認める場合は妊娠中から鉄剤などを内服または点滴し改善しておきます。また、妊娠 33 ~ 34 週頃から自分の血液をストックしておく「自己血貯血」を 2 ~ 3 回行い、手術には輸血の準備など万全の態勢を整えてから帝王切開術を行います。 分娩~産褥 お産は帝王切開が原則となり、妊娠 37 週末までに帝王切開を施行するのが望ましいとされています。しかし、帝王切開の予定より前であっても、出血が起こった場合には出血量や赤ちゃんの発育の具合で緊急帝王切開を行う場合もあります。 出血が大量になると、赤ちゃんだけでなくお母さんの生命に危険が及ぶこともあり、どうしても出血が止まらない場合や事前に癒着胎盤と診断された場合には、子宮を摘出することがあります。

ホーム 研修ノート No. 103 産科異常出血への対応 (2)前置胎盤・癒着胎盤 1)前置胎盤 ①病態 ・前置胎盤は子宮下部に胎盤が形成され,内子宮口にかかる状態である. ・分娩期にむけての子宮口の開大徴候は,脱落膜と胎盤の剝離を惹起し,妊娠中の出血の原因となる. 剝離の程度が軽度で自然止血することもあるが(警告出血),出血 が持続する場合は分娩とし,胎盤を娩出した後の子宮収縮による止血機転(生理的結紮)で止血をはかるしかない. ・しかし,子宮下節は子宮筋の収縮力が弱く弛緩出血となりやすいことや,子宮内膜が薄く癒着胎盤になりやすいことから,帝王切開中の異常出血にもなりやすい. ②検査 ・前置胎盤は超音波検査(経腟)で診断する. ・前置胎盤であるだけでは自覚症状がないので,妊娠中期(妊娠 23~24 週頃)の頸管長チェックと合わせて全例にスクリーニングする方法や,経腹超音波検査で子宮下部に胎盤が付着している場合に経腟超音波検査で精査するなどで診断する. ・経腟プローブを腟内に挿入し,ゆっくりと前腟円蓋まで進める. 頸管を描出させる時に頸管が屈曲しないように気をつける. 一旦前腟円蓋に進めたプローブを少し引き気味にしてきれいに描写できる場所を探す. 胎児先進部が子宮口や胎盤に密着する場合は,下腹部から先進部を軽く押し上げて,隙間をつくると診断しやすくなる. また,後壁の胎盤付着の場合,頸管をプローブで強く押し過ぎると前壁が後壁に近づき,あたかも前置胎盤であるかのように描出されることがあるので注意する. ③診断 ・妊娠中期に前置胎盤と診断されても,その後そうでないと診断されることがある. 妊娠15~24週に前置胎盤と診断されるのは1. 1~3. 9%であるが,分娩時の診断では0. 14~1. 9%に減少するという報告がある1). これは,胎盤のmigrationという現象があるためである. 胎盤のmigrationは,妊娠中期に起きる子宮下節の開大と,妊娠末期に著明となる子宮筋の伸展による胎盤辺縁と子宮口の超音波画像上のみかけの変化で,子宮の増大とともに胎盤が子宮口より離れていくようにみえることをいう. 2)癒着胎盤 ・しかし,最近の解像度のよい超音波機器で観察すれば,子宮頸管,子宮下節の判別 が可能で,これらの変化をとらえることができる. 胎盤と子宮下節,頸管の位置関 係が正しく認識されれば,妊娠中期でも,より正しい前置胎盤の診断が可能となる 2).

⑤診断 ・癒着胎盤は,絨毛が筋層の表面のみに癒着し,筋層内に侵入していないもの(単純癒着胎盤),絨毛が子宮筋層深く侵入して剝離が困難になった状態(侵入胎盤),さらに,絨毛が子宮壁を貫通して漿膜面にまで及んでいるもの(穿通胎盤)に分類される 13). しかし,術中所見などでこれらの分類をすることもあるが,原則これらの 分類は病理診断で行う. 胎盤の病理検査ではなく,子宮摘出標本の病理検査でしか 正確な細分類はできないと考える. ・英語表記として,2018 年 FIGO は癒着胎盤の呼称を改変した 14). 単純癒着胎盤を placenta creta(acreta でない),侵入胎盤を placenta increta,穿通胎盤を placenta percretaと呼び,全体をplacentaaccretaspectrumdisorder(sPAS)と呼称する ( 図20). つまり,分娩前の超音波診断の段階では「癒着胎盤」「PAS」などと呼び, 分娩後,病理診断がされた場合は細分類で呼ぶことができる. また,子宮が摘出 されずに臨床的に癒着胎盤と診断した場合は,単に「癒着胎盤」「PAS」と呼ぶか, 臨床的に細分類したことを併記するのが望ましい. ⑥治療 a. 子宮摘出 ・経腟分娩後に胎盤が娩出されずに用手剝離などがうまくいかず癒着胎盤と診断した 場合や,帝王切開中に直視下の子宮や胎盤の所見により明らかに癒着胎盤が診断された場合は子宮摘出が考慮される. 侵入胎盤や穿通胎盤を無理に剝離すれば,剝離によって断裂した胎盤の癒着している場所や,癒着胎盤以外の場所の胎盤剝離後の弛緩出血で異常出血となる恐れがある. 癒着胎盤,特に前置癒着胎盤を剝離して起こした出血は急激で多量であるため,出血により術野の確保が困難となるなど,熟練した術者であっても難しい手術である. 母体の重篤な転帰や,妊産婦死亡になるリスクがある15). よって,癒着胎盤を診断したら,胎盤を剝離せず子宮全摘をするのが異常出血を免れる根治術であると考える. ・子宮摘出の方法として,単純子宮全摘術や子宮腟上部切断術があるが,出血を少なく癒着胎盤を治療することが目的であるので,子宮全摘にこだわる必要はなく,如何に安全に癒着胎盤を処理するかということを念頭に置く( 図21). 一方,前置癒着胎盤である時は,子宮頸部近くからの出血が多くなることも懸念されるため,子宮頸部までしっかりと摘出する子宮全摘が必要となる場合も少なくない.

いつわかるの? 前置胎盤だけの場合は特に症状がありません。ただし、腹痛を伴わない突然の 「警告出血」 が起こることがあります。このような100~200ccぐらいの大量性器出血が起きた場合は、すぐに受診が必要です。これらの症状は妊娠28週以降に増加するといわれています。 前置胎盤の診断時期 妊娠初期や中期の妊婦健診で、たとえ「前置胎盤の疑いがある」と言われたとしても、それは確定ではありません。妊娠が進み子宮が大きくなると、胎盤が徐々に上に上がり位置が変わる可能性もあるからです。そのため、前置胎盤が疑われる場合は妊娠16週ごろから注意深く経過観察し、最終的な判断は妊娠31週末までに行います。しかし、中には妊娠16週前後でも、胎盤の位置は今後も変わらず前置胎盤であると強く疑われることもあります。 妊婦健診で前置胎盤の可能性を伝えられたとしても、最終診断で前置胎盤が解消されればお産は経腟分娩となります。診断の結果、帝王切開を行うことになった場合は、状況をみながら36~38週までの間に行われることが多いでしょう。 前置胎盤になる確率は? 死亡率は? 「日本産科婦人科学会によると、前置胎盤になる確率は全分娩の0. 3~0. 6%といわれています。また、前置胎盤が原因で死亡するということは、ほとんどないと思っていただいていいと思います」と、大槻先生。 前置胎盤の治し方は? 入院する必要はあるの? 前置胎盤を治すことはできませんが、前置胎盤と診断されてもおなかの張りや出血などの症状がなければ、普段通りの生活を送ることはできます。ただし、おなかが張る、性器から出血した場合はたとえ出血量が少なくてもすぐに受診をして、医師から「安静」と指示されたときは必ずその指示に従ってください。前置胎盤と診断された場合、施設によっては妊娠30週ごろから待機入院となるところもあるようです。 前置胎盤がなぜ起こるのか現時点では解明されていないので予防法というのはありません。前置胎盤が起こる可能性が高くなるリスク要因としては、流産や中絶、帝王切開、子宮筋腫など何らかの手術により子宮の内膜が傷ついた場合に前置胎盤も起こりやすくなると考えられています。また、喫煙をしている人、インスタント食品を過剰摂取している人は低酸素状態になるため血液の流れが悪く、血管自体ももろくなります。そうなると、胎盤が血管にしがみつこうとするため癒着胎盤になる可能性が高くなります。 前置胎盤になった場合、出産方法は?

May 20, 2024, 1:55 pm